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#14 歯根端切除術、#15 意図的再植術 7ヶ月経過後(その間に一度もリコールがなかった症例)

あけましておめでとうございます。

今年もこのホームページならびにブログをよろしくお願いいたします。

今月は9日からの診療でしたが、多くの患者さんをご紹介いただき感謝しております。

また年が明けてから嬉しい出来事がありました。

以前(今から7ヶ月前)に意図的再植術と歯根端切除術を同時(同日)に行なった患者さんがいましたが、術後全く連絡が取れずどうなったのかと気をもんでいました。

すると、ようやく患者さんと連絡がつきました。

まず、今の状態を電話で確認しましたが・・・

” 何の問題もないし、全然噛めるのでもう終わり(来る必要がない)と思っていた”

と言うお答えでした。

術前ですが、#14,#15ともに石灰化しており穿通ができず、症状(打診痛・圧痛・咬合痛)が消失せず、当歯科医院に紹介となりました。

お時間をいただき、#14,#15の外科治療を同時に行うことになりました。

#15をまずは意図的再植。

意図的再植術の生存率は最近の文献(Mainkar 2017)では90%。

しかしながらこの治療が嫌われる?理由は術式に対する情報がほとんどなく(古い情報ばかりで現代のマイクロスコープを用いた治療の予後についての研究ほとんどない)、これがゴールデンスタンダードだ!と言われるものがないこと、またインプラントの存在です。

USCの時も、意図的再植にトライするレジデントは私を除けばほとんどいませんでした。

その後、#14を歯根端切除術しましたが、今思えばこの順番は逆にするべきでした。

#15の処置後、#14の歯根端切除術を行うと、#15から絶えず出血が#14の骨窩洞に流れ術野が汚染されることと、#14の治療時のアシスタントのサクションが常に#15に触れるため、再植して戻した歯牙が揺れてしまったためです。

#15をカットした断面はすごいものでした。

まるで川です。

これをすべての面を含み根管形成するのは無理だと言うことがわかると思います。

また、こうした部分に本来は細菌感染が起きないように十二分に治療をして行く必要があることがわかると思います。

ラバーダム防湿は必須です。

しかし、最近のマスコミ報道でこのラバーダムを装着すると呼吸ができなくなるような発言を同業者からの意見として取り上げていました。

私は患者としてもラバーダムを装着されたことがありますのでよくわかりますが、根管治療をしていただいていた時、ラバーダムしたまま寝てしまいました。普通に口呼吸も鼻呼吸もできます。

おそらくこう言う種類の感想を述べている歯科医師はラバーダムをした経験に乏しいとしか言いようがありませんし、ラバーダムで呼吸ができなくなるなどナンセンスで、そのようなエビデンスもありません。

日本小児歯科学会のホームページをご覧ください。

このような報道はまさにミスリーディングと言えますが、もはやラバーダム防湿をしている歯科医師もほとんどいないと言う状況の中、患者側からすればこうした処置自体がありがた迷惑化している可能性があります。

以前、経営していたGPの歯科診療所で全くこのラバーダムに対する重要性を訴えてもほとんどの人はピンとこなかったし、H18年3月に廃止された時も誰一人としておかしいと訴えた歯科医師はいませんでしたし、ニュースにもならなかった(こう言う形でしか取り上げられない)ことがそれを示しています。

もはやラバーダムは、”わかっている人だけが求める処置”と言えるでしょう。

USCではラバーダムを用いず、治療を行えば破門されます。

それくらい、重要なものなのですが。

話が逸れましたので、元に戻します。

術直後の状態です。

#15は動揺がありました(垂直的)が、固定はしませんでした。

この状態でこの患者さんは7ヶ月過ごしていたのです。。。

仮歯もつけずに、です。

もしかしたら脱落したのか?

痛みが出て転院したのか?

引っ越したか何かの事故に会われたのか?

かなり気を揉んだ7ヶ月でした。

しかし、7ヶ月ぶりに連絡がつき、調子がいいとのことで最初は不安でしたが・・・

#14のMB, DBにあった、#15の根尖部・頬側にあった骨欠損は回復しています。

歯の動揺度も生理的範囲内で、ポケットも正常でした。

この状態で何でも噛めるから・・・かぶせは必要ないんじゃないか?と勘違いされていたようです。

かかりつけの先生に早急にクラウンを装着していただくようにお願いしました。

しかし、良かったです。

これが今年に入って最初の最も嬉しかったニュースでした。

“いやあ、先生に治療してもらって本当に良かったです!ありがとうございました。”

と言われた時は、命は救えない我々の仕事ですが、これほど嬉しい言葉はありませんし、何度聞いてもまた頑張ろうと思える言葉です。

歯科医師は医師ではありません。

戦う相手は基本的に細菌です。

腫瘍やウィルスを相手にはしません。

そして患者さんの命も基本的には救えません。

ではその存在意義は何なのか?と問われた時、歯科医師である貴方は何と答えますか?

世の中にそれを発信していけるでしょうか。

今年はそうした意義に関しても若い先生を中心に伝えていけるように頑張ろうと思います。

今年もよろしくお願いします。

松浦

薬剤の効果に対する淡い期待

周りで開業を目指す若い先生がちらほらいる。

そこで質問に上がることが、今後どのようなスタイルで開業したらいいか?というものだ。

今までの歯科医院は、私を含めて完全にGP(何でもやる)であった。

しかし、GPとして補綴、ペリオ、インプラント、歯内療法、口腔顔面痛など各分野を習っていくうちに、これは自分一人で全てを抱えて行うべきものではないということに気づかされた。

一つ一つが深く、とても一人で全てを学ぶには時間が足らなさすぎるからである。

かといってエンドだけで開業するというのもよほどの覚悟とstatusがないと厳しいだろう。私が向こうに行って専門医になったからこそ信頼して紹介してくれる先生たちがいるのである。

何か自分の特徴を出していかないと厳しいだろう。

そこである先生が、私の逆張り、つまり全ての神経を残す歯科医院はどうか?というとんでもない提案をしてきた人がいる。

ずばり、

“歯髄保存専門 バイオセラミック歯科”

う〜ん。。。もしGPだったら思わずやってみようかなと思う感じの歯科医院名だ(笑)

こうした考えの背景にあるのは、薬剤に対する過度な期待である。

どんな深い虫歯や酷い痛みがあっても、神経を保存できる薬剤や神経を復活させる薬や、虫歯菌や根尖病変を起こすような細菌を完全に駆除できる薬品や歯槽骨をもりもりと復活させることができる薬があればどれだけいいだろうか?そう考えているのだ。

しかしながらそのような材料は生まれては消え、消えては生まれしてきている。

例えば、多くの人がMTAを歯髄炎を治癒させる魔法の薬と思っているがそんな作用はないんですよ、という説明を講習会でするとがっかりした顔をするのがそれをよく表している。

患者さんは他院で#20の遠心のカリエスをそうした魔法の薬で治療をした。

カリエスは無くなる(無い)はずである。

だって魔法の薬で詰めたんだから。

しかし、不思議なことにアメリカに2年いたが、USCに来た患者でこの不思議な薬で詰めて来た、と言う患者は1人もいなかったし、USC歯内療法科に生活歯髄療法でこれを使用することを勧めている人は誰もいない、というか存在自体も知られていない材料であった。

が、上記のPAでのPARLの中にはやはり現在進行形のう蝕?しかない。

実際充填物の直下にはカリエスしかなかった。

なんとかベストセメントはう蝕を取らなくてもカリエスの進行を抑えるのではなかったのか??

ちなみにこのベストセメントに関してPubMedで拾える論文はIn vitroの1本の論文しかない。

この論文の内容を簡潔にまとめると、抜去歯牙で根面う蝕を予防するためにCHX(クロルヘキシジン)のバーニッシュ、Doc’s bestのバーニッシュ、何もしないを歯頚部(CEJより2mm下に4×4mmの正方形状に各種材料塗りこむ)に塗り、S.mutansが含まれるボトルに抜去歯牙を放り込み、

結果的にう蝕予防効果があったのはCHX, Doc’s bestでした、2つに有意差は無いです、従ってCHX=Doc’s bestですよ、と言う論理なのだが、

私が注目したのはなぜう蝕予防効果があるとあらかじめわかっているCHXとベストを比べようと思ったか?、の背景だ。

Introductionに面白いことが書いてあった。

そこに書いてあることを要約すると、

根面う蝕はエナメルのう蝕の2倍進行しやすく、これを防ぐことが非常に重要で従来in vitro,in vivo双方でCHXがう蝕抑制に効果的であると言うのはわかっているものの、根面う蝕予防に対するVarnish材に関してはこれが最も効果的であると言うコンセンサスを得られている材料はなく、そこでアメリカのテキサスヒューストンにある歯科の会社が銅の抗菌効果に注目し、根面う蝕予防のバーニッシュ材として使用できないか?と考えて編み出されたものである、と記載がある。

確かにこの1本では抗菌効果があることはわかったが、

どこにもこの薬を用いれば虫歯を取らなくても構わないですよ、と言う記載はない。

う蝕は細菌感染症であるから、どこまで取れば完全に取れたのか?誰にもわからない。ある人はう蝕検知液で取れるといい、ある人はまた硬さで判定するという。

しかし、完全に取れたかどうかなんてわからないし、多くの場合は残存している。

だからこうした薬を頼ろうとするのだろうが、英語が不得手な我々はこの会社に嵌められているのだろうか?

さてさっきの症例はといえば、結局う蝕は残存し、しかも進行していた。露髄していたがはずだが、第3象牙質によりブロックされて助かっていた。

う蝕治療(生活歯髄保存療法)で重要なことは、細菌の可及的減少であり、その後の歯冠部の封鎖でそれを極力維持することがさらに重要であり、どのような薬剤を用いたかは重要でない、ことが何と補綴の論文で明らかになっている。

話を歯周病に移してみよう。

私がかつてGPだった時に歯周病専門医の先生から習って相当びっくりした話を聞かされたことがある。

ポケットが5mm以上あった時に、歯石は完全に除去することはもはや不可能でできない!というのである。

しかしながらそれでもルートプレーニングを行うことで細菌数は減少し、定期的なケアを受け続ければそのままの状態で維持が可能になるという。カリエス治療と同じではないか。

話を私の専門分野の根管治療に移してみよう。

根尖部にこのような影ができた時、完全に根管の中から細菌をなくすことができるだろうか?

答えはNoである。

一度根管に細菌が感染した場合、2度とそれを完全に駆逐することはできないのである。

それは歯の解剖を見ていただければすぐにお分かりだろう。

複雑な形態を全て掃除することはできない。

できないのにも関わらず、多くの人ができると信じてその困難性にチャレンジしている。

しかし、いまだに全ての細菌を駆逐する方法はないのだ。

しかしながら、細菌感染の量が閾値を下回れば、そしてその状態が維持され続けるのであれば、根尖病変は縮小していく。

歯科疾患の相手はそのほとんどは、細菌感染である。

それは時には、筋筋膜痛であったり、神経障害性疼痛であったり、神経血管性疼痛であったりすることもあるだろう。

しかし、私を含む多くの一般開業医にとって戦う相手はバクテリアである。

であるならば、このバクテリアの数のコントロールを行い、増えないようにコントロールする、もしくは定期的にその補助をするのが我々プロフェッショナルの役目であるはずだ。

ということを考えた時に、

虫歯治療(神経を保護する治療)で何が一番重要だろうか?

歯周治療ではどうだろうか?

根管治療をはじめとする歯内療法ではどうだろうか?

細菌感染を可及的に減少させ、その状態を維持することが治療で重要であるということがわかっているのであれば、その答えは未知の薬剤や抗生物質や抗菌薬の薬効の程度やセメントにあるのではないということがお分かりいただけるだろうか?

汚れたガッタパーチャや器具の使用で綺麗に根管充填ができたとしても、その要件が満たされるだろうか?

USCの歯学部でよく見られた、手袋で直接器具を触れるということがいかに問題があることがわかるだろうか?

ラバーダムをしない歯科治療が天に唾を吐きかける治療であることがわかるだろうか?

そんなもの見たこともないし、やっても意味がないよ、と言うのであれば、

1917年に行われた根管治療がどのようなものであるか?確認したほうがいい。

あなたに必要なことは、以上のように正しい歯科診療に対するアプローチ法を知ること、そしてそれに気づかぬうちに歯を悪くして歯科治療にならないように、予防することである。

そしてその情報は、伝聞・推定などいらない。

Googleも有益な医療情報をキャッチできるように検索順位を大幅にチェンジするそうなので、多くの患者さんがなるべくバイアスのかからない正しい情報を手に入れられるようになればいいなと願っている。

歯科医療、崩壊が始まっている??

歯科に関する面白い記事があるので、興味がある患者さんは一度目を通していただきたい。

崩壊が始まっている歯科医療 将来、治療を受けられなくなる地区はどこ?

概ねこの記事で語られていることに私は同意する。(金儲け主義に走らざるを得ない〜の行の部分は除く)

私のような吹けば飛ぶような弱小歯科医院は、患者さんに過剰なほどのサービスを持って報いることはできない。

今更、保険診療の欠点に関してあれこれ言及するつもりはないが、私は帰国後この制度に頼って診療するつもりは金輪際ない。

保険診療は全国一律同じ金額であり、その治療費は不当に低く設定されている。

国家が財政難の昨今、医療制度の劇的改善・消費税の大幅UPなくしてこの状況はもはや破綻するまで(もう破綻していると言われているが)変わらないだろう。

恐らく、このHPにたどり着いた患者さんは何かしら治療に対して不安や不満を抱いている人が多いだろう。

  • (歯科医師からの)説明が少ない
  • 何時間も待たされる
  • 〇〇をしてくれない・〇〇を使ってくれない

etc…

以上のような疑問をあなた方が歯科医師にぶつけると、恐らくよろしくない反応(煙たがれているような反応?)が帰ってくるだろう。

そう、我々日本の歯科医師にはそんな時間はないのだ。

説明する時間があるなら患者さんの治療が必要であり、さもなければ医院は潰れてしまう。

何時間も待たされるのは、より多くの患者さんを見ないと成り立たないこのシステムで、夕方などの時間帯は患者さんでごった返すからだ。交通渋滞のようなものである。いや、でも予約を取ったのに待たされるのは??それは前の患者さんが伸びたり、患者さんが遅刻するとそのように交通渋滞になってしまう。従って、あなたは待たされるのである。

よく患者さんのうったえで、あそこはラバーダムを使用してくれなかった、マイクロスコープを使用してくれなかった、というものがあるが、そのようなものを使用して治療すれば、医院は赤字である。なぜならば治療に時間がかかるからだ。そもそもそうした道具を”保険診療のために”導入する先生などほぼ皆無である。

例えば、私が働いていた東区原田のまつうら歯科医院では、すべての患者さんに自腹を切ってラバーダムを使用していた。しかし、どれほどの患者さんがそれに対してありがたみを感じていただろうか?それを用いて患者さんが増えたということもないし、治療に満足を覚えたという話も聞いたことがない。

私は、歯科治療とは命に関わる治療をすることがない分野であるから、何を持って患者さんにこの治療の価値を伝えるのが最良か?と考えると、やはり良好な結果・長期的な予後を提供することだと考える。

そうした目標を達成するには、十分な治療時間は欠かせない。

例えば、勤務の頃、大臼歯の抜髄〜根充までを30分でできるか?と聞かれたことがあった。

今となってはこの質問自体が、”crappy”そのものであるが、それは致し方がない。

我々も生きていかなければならないからである。

我々にも守るべき家族がいる。

あなたが格安の医療費で良い治療を得るために私たちは土曜も日曜も祝祭日も家族を切り捨てて、遅くまで”生きていくために”歯科医療を提供しなければならないのだろうか?

私にはそう思えない。

さすればいかに治療を短く、効率的に行うかを考えて当然であろう。

しかし、この方式は残念ながら歯科治療という命の関わり合いがない医療分野には馴染まない。

時間をかけて丁寧にやる治療が必ずしも長期的な予後を提供するとは限らないが、長期的な予後を求めて治療するためには短時間診療はありえない。

このように考える先生が、少なくとも私がブログを始めた10年前にはほとんどいなかった気がするが、最近の先生は考え方が変わってきている。

特にいままで虐げられてきた、保存修復・歯内療法分野の目をみはるほどの技術革新・治療技術の進歩はもはや現代の日本の医療制度では完全に追いつけなくなっている。

あなたの歯の定期管理を任せられる歯科医院をまずは見つけよう。

あなたが補綴物を装着しているのであれば、インプラントを持っているのであれば、頻繁なチェックアップはもはや欠かせないだろう。

しかし、基本的に疾患のない定期管理は予防であり、自由診療である。そこを患者さんは理解する必要がある。

保険診療で予防処置は原則受けられない。

そして、もしあなたの歯に何かあったら、あなたのかかりつけ医を責めるのではなく、

何がこの問題を引き起こすきっかけになったのか?

この問題をクリアする方法はあるのか?

その他の治療のオプションはあるのか?

治療費はいくらかかるのか?

治療の後にケアしなければならないことは何か?

を歯科医師と十分に話し合い、治療の筋道を決めることが肝要である。