薬剤の効果に対する淡い期待

周りで開業を目指す若い先生がちらほらいる。

そこで質問に上がることが、今後どのようなスタイルで開業したらいいか?というものだ。

今までの歯科医院は、私を含めて完全にGP(何でもやる)であった。

しかし、GPとして補綴、ペリオ、インプラント、歯内療法、口腔顔面痛など各分野を習っていくうちに、これは自分一人で全てを抱えて行うべきものではないということに気づかされた。

一つ一つが深く、とても一人で全てを学ぶには時間が足らなさすぎるからである。

かといってエンドだけで開業するというのもよほどの覚悟とstatusがないと厳しいだろう。私が向こうに行って専門医になったからこそ信頼して紹介してくれる先生たちがいるのである。

何か自分の特徴を出していかないと厳しいだろう。

そこである先生が、私の逆張り、つまり全ての神経を残す歯科医院はどうか?というとんでもない提案をしてきた人がいる。

ずばり、

“歯髄保存専門 バイオセラミック歯科”

う〜ん。。。もしGPだったら思わずやってみようかなと思う感じの歯科医院名だ(笑)

こうした考えの背景にあるのは、薬剤に対する過度な期待である。

どんな深い虫歯や酷い痛みがあっても、神経を保存できる薬剤や神経を復活させる薬や、虫歯菌や根尖病変を起こすような細菌を完全に駆除できる薬品や歯槽骨をもりもりと復活させることができる薬があればどれだけいいだろうか?そう考えているのだ。

しかしながらそのような材料は生まれては消え、消えては生まれしてきている。

例えば、多くの人がMTAを歯髄炎を治癒させる魔法の薬と思っているがそんな作用はないんですよ、という説明を講習会でするとがっかりした顔をするのがそれをよく表している。

患者さんは他院で#20の遠心のカリエスをそうした魔法の薬で治療をした。

カリエスは無くなる(無い)はずである。

だって魔法の薬で詰めたんだから。

しかし、不思議なことにアメリカに2年いたが、USCに来た患者でこの不思議な薬で詰めて来た、と言う患者は1人もいなかったし、USC歯内療法科に生活歯髄療法でこれを使用することを勧めている人は誰もいない、というか存在自体も知られていない材料であった。

が、上記のPAでのPARLの中にはやはり現在進行形のう蝕?しかない。

実際充填物の直下にはカリエスしかなかった。

なんとかベストセメントはう蝕を取らなくてもカリエスの進行を抑えるのではなかったのか??

ちなみにこのベストセメントに関してPubMedで拾える論文はIn vitroの1本の論文しかない。

この論文の内容を簡潔にまとめると、抜去歯牙で根面う蝕を予防するためにCHX(クロルヘキシジン)のバーニッシュ、Doc’s bestのバーニッシュ、何もしないを歯頚部(CEJより2mm下に4×4mmの正方形状に各種材料塗りこむ)に塗り、S.mutansが含まれるボトルに抜去歯牙を放り込み、

結果的にう蝕予防効果があったのはCHX, Doc’s bestでした、2つに有意差は無いです、従ってCHX=Doc’s bestですよ、と言う論理なのだが、

私が注目したのはなぜう蝕予防効果があるとあらかじめわかっているCHXとベストを比べようと思ったか?、の背景だ。

Introductionに面白いことが書いてあった。

そこに書いてあることを要約すると、

根面う蝕はエナメルのう蝕の2倍進行しやすく、これを防ぐことが非常に重要で従来in vitro,in vivo双方でCHXがう蝕抑制に効果的であると言うのはわかっているものの、根面う蝕予防に対するVarnish材に関してはこれが最も効果的であると言うコンセンサスを得られている材料はなく、そこでアメリカのテキサスヒューストンにある歯科の会社が銅の抗菌効果に注目し、根面う蝕予防のバーニッシュ材として使用できないか?と考えて編み出されたものである、と記載がある。

確かにこの1本では抗菌効果があることはわかったが、

どこにもこの薬を用いれば虫歯を取らなくても構わないですよ、と言う記載はない。

う蝕は細菌感染症であるから、どこまで取れば完全に取れたのか?誰にもわからない。ある人はう蝕検知液で取れるといい、ある人はまた硬さで判定するという。

しかし、完全に取れたかどうかなんてわからないし、多くの場合は残存している。

だからこうした薬を頼ろうとするのだろうが、英語が不得手な我々はこの会社に嵌められているのだろうか?

さてさっきの症例はといえば、結局う蝕は残存し、しかも進行していた。露髄していたがはずだが、第3象牙質によりブロックされて助かっていた。

う蝕治療(生活歯髄保存療法)で重要なことは、細菌の可及的減少であり、その後の歯冠部の封鎖でそれを極力維持することがさらに重要であり、どのような薬剤を用いたかは重要でない、ことが何と補綴の論文で明らかになっている。

話を歯周病に移してみよう。

私がかつてGPだった時に歯周病専門医の先生から習って相当びっくりした話を聞かされたことがある。

ポケットが5mm以上あった時に、歯石は完全に除去することはもはや不可能でできない!というのである。

しかしながらそれでもルートプレーニングを行うことで細菌数は減少し、定期的なケアを受け続ければそのままの状態で維持が可能になるという。カリエス治療と同じではないか。

話を私の専門分野の根管治療に移してみよう。

根尖部にこのような影ができた時、完全に根管の中から細菌をなくすことができるだろうか?

答えはNoである。

一度根管に細菌が感染した場合、2度とそれを完全に駆逐することはできないのである。

それは歯の解剖を見ていただければすぐにお分かりだろう。

複雑な形態を全て掃除することはできない。

できないのにも関わらず、多くの人ができると信じてその困難性にチャレンジしている。

しかし、いまだに全ての細菌を駆逐する方法はないのだ。

しかしながら、細菌感染の量が閾値を下回れば、そしてその状態が維持され続けるのであれば、根尖病変は縮小していく。

歯科疾患の相手はそのほとんどは、細菌感染である。

それは時には、筋筋膜痛であったり、神経障害性疼痛であったり、神経血管性疼痛であったりすることもあるだろう。

しかし、私を含む多くの一般開業医にとって戦う相手はバクテリアである。

であるならば、このバクテリアの数のコントロールを行い、増えないようにコントロールする、もしくは定期的にその補助をするのが我々プロフェッショナルの役目であるはずだ。

ということを考えた時に、

虫歯治療(神経を保護する治療)で何が一番重要だろうか?

歯周治療ではどうだろうか?

根管治療をはじめとする歯内療法ではどうだろうか?

細菌感染を可及的に減少させ、その状態を維持することが治療で重要であるということがわかっているのであれば、その答えは未知の薬剤や抗生物質や抗菌薬の薬効の程度やセメントにあるのではないということがお分かりいただけるだろうか?

汚れたガッタパーチャや器具の使用で綺麗に根管充填ができたとしても、その要件が満たされるだろうか?

USCの歯学部でよく見られた、手袋で直接器具を触れるということがいかに問題があることがわかるだろうか?

ラバーダムをしない歯科治療が天に唾を吐きかける治療であることがわかるだろうか?

そんなもの見たこともないし、やっても意味がないよ、と言うのであれば、

1917年に行われた根管治療がどのようなものであるか?確認したほうがいい。

あなたに必要なことは、以上のように正しい歯科診療に対するアプローチ法を知ること、そしてそれに気づかぬうちに歯を悪くして歯科治療にならないように、予防することである。

そしてその情報は、伝聞・推定などいらない。

Googleも有益な医療情報をキャッチできるように検索順位を大幅にチェンジするそうなので、多くの患者さんがなるべくバイアスのかからない正しい情報を手に入れられるようになればいいなと願っている。